グランドセイコーとザ・シチズン スタンダードモデルを徹底比較
~双方の魅力と違いは? 完全解説~

皆様は「年差時計」という言葉をご存じでしょうか。
精度の高い時計といえば、クオーツ式の「電波時計」を想起される方もいらっしゃると思います。電波時計は地上の基地局や人工衛星から時刻データを受信し、時刻修正を図ることで正確な時刻を表示する時計ですが、本来足りない精度を電波受信で”補っている”とも言えます。

それに対して、「年差時計」は、電波などの精度補助機能に頼ることなく、時計本来がもつ重要で普遍的な使命”正確さ”を極限まで追求し、精度を突き詰めた時計の総称です。概ね1年に誤差が±10秒程度の性能のものを指します。
今回は、「年差時計」の代表格ともいえる「Grand SEIKO」グランドセイコーと、「The CITIZEN」ザ・シチズンの代表的なクオーツ式3針モデルを4つの要素から徹底比較しつつ、双方の魅力と違いを掘り下げてみたいと思います。

比較対象モデル

今回の記事は、それぞれのスタンダードモデルともいえる、3針クオーツモデルを基準として比較していきたいと思います。


【グランドセイコー】SBGP011
9Fクオーツ 352,000 円(希望小売価格)

【ザ・シチズン】AQ4091-56E光発電エコ・ドライブ 和紙文字版 429,000円(希望小売価格)

はじめに:【ブランドの誕生背景】

GRAND SEIKO 愛称「ジーエス」

クオーツ時計誕生前の1960年、スイス製が高級腕時計の代名詞とされていた当時、それまで培ってきた時計技術の粋を結集して「世界に挑戦する国産最高級の腕時計をつくる」という志のもとに誕生しました。 中でも「初代グランドセイコー」は、スイスの厳しい精度検査基準である「クロノメーター検査基準」優秀級規格に国産で初めて準拠したモデルとして発売され、 当時の上級国家公務員の初任給を2倍以上上回る破格の高級品として産声をあげました。
機械式時計として誕生しましたが、その後、クオーツ・スプリングドライブモデルが加わり、3つのムーブメントで時の移ろいが見せる様々な姿を表現しています。

The.CITIZEN 愛称「ザシチ」

21世紀に向けて、新しい時代の思想や生き方にふさわしい腕時計をつくりたい。その思いから「ともに生きていくこと」をコンセプトとするザ・シチズン。ケース裏ぶたにシリアル番号を刻印し、顧客登録制度を採用したアフターサービスを設け、”生涯寄り添える” 腕時計として1995年に誕生しました。その思いの表れが、時計業界初の「正規10年間無償保証」です。
世界初の太陽電池式アナログクオーツ時計を発表し、光発電時計のパイオニアであるシチズンは、光発電「エコ・ドライブ」を搭載したモデルが多いのが特徴。近年は高級ラインの一部に機械式モデルもラインアップされています。

グランドセイコーには、その歴史の長さと「世界に挑戦する」という高い志から開発されたというストーリーにロマンを感じますね。ザ・シチズンは、10年という非常に長い保証期間を有し、その期間中には定期点検も無償で受けられるという、安心のサポート体制が魅力です。

★クオーツ式時計が動く仕組み
クオーツ式時計は、「水晶振動子に電圧をかけると規則正しく振動する」という性質を利用して作動しています。1秒間に32,768回という水晶振動子の振動をIC回路が正確に検知して、1秒に1回の電気信号に変換し、その電気信号によって秒針が1秒進むメカニズムです。

比較1:ムーブメントと精度【限りなく誤差のない時計を】

「精度」。
どのような時計も突き詰めれば必ずぶつかる大きな壁ですが、グランドセイコーとザ・シチズンは他に類を見ない優れた共通点と”差”があります。

 ◇グランドセイコー:年差±10秒 自動検温1日540回 

グランドセイコーのクオーツモデルは、一部限定モデルを除き、年差±10秒をカタログ値としています。「9Fクオーツ」と呼ばれるグランドセイコー専用のムーブメントは、塵の侵入を防ぎつつ、保油性を高めるための高気密構造になっていながら、非常に美しい仕上げになっています。3か月のエージングを経て性能が安定した水晶振動子のみを使用し、時間のズレの要因となる温度変化に対する対応も、自動検温機能を通じて誤差を補正することで行っています。

また、9Fクオーツ特有の機能として、「緩急スイッチ」が設けられていることが挙げられます。これは、使いはじめて数年たって、進みがち・遅れがちといった傾向がはっきりした時に、このスイッチで精度を補正することができるようになっています。元々が高精度なので、出番はほとんどないとも言えますが、グランドセイコーの心配りと言えるでしょう。
多くの機能を搭載し、太く長い針を動かしながらも、電池寿命は一般的なクオーツウオッチよりも長い約3年を実現。省電力にも気を配っています。

 ◇ザ・シチズン:年差±5秒 自動検温1日1440回 

ザ・シチズンのクオーツモデルは、一部の高級モデルを除き、年差±5秒のスペックを公開しています。精度の鍵となるムーブメント内の水晶振動子は、6ヶ月寝かせて精度基準をクリアしたものだけを厳選。また、時間のズレの要因となる温度変化に対する対策は、温度補正機能による自動検温を1日に1440回行うことで誤差を補正しています。

動力源は、シチズン独自の光発電「エコ・ドライブ」。定期的な電池交換を必要とせず、光の力だけで動きつづける年差±5秒の高精度を実現しています。和紙文字板のモデルは、和紙の上に直接印刷をせず、透明な上板との二重構造を採用。この構造により、きれいな印字や金属の植字の装着、全体を覆う旭光模様の表現が可能になっただけでなく、強度も向上しています。上板には紫外線吸収剤を練りこみ、日焼けによる和紙の劣化を防いでいます。”光”を受けて変化する和紙の風合いと表情を末永く楽しむことができます。


また、もうひとつ注目すべき点が「カレンダー」です。ザ・シチズンは「パーペチャルカレンダー」と呼ばれる特殊なカレンダーを搭載しています。これは、2100年まで「日付がずれない」、つまり2月→3月、4月→5月のように、日付が31日まで無い月の切り替わりを機械が判別してくれるという、利便性に優れたカレンダー機能です。一方のグランドセイコーは、月末にカレンダーの手動修正が必要となります。

品質は両社とも甲乙つけがたいですが、最大の違いとして”動力源”が挙げられます。動力は通常電池を使用していますが、一般的なクオーツ時計が約2年間持つのに対し、グランドセイコーは3年間と、無駄のない造り込みの差が”電池寿命”に現れています。それに対して、ザ・シチズンは、廃品電池を減らすなど環境へ配慮した「エコドライブ」(ソーラー)を搭載し、定期的な電池交換そのものを不要としています。

また、詳しく見ていくと、年差の精度、自動検温回数、カレンダーの3種において、小さからぬ数値的差が生じているのが分かります。ザ・シチズンはそれらの点においてグランドセイコーより優位性を保っており、技術の高さを感じさせてくれます。グランドセイコーにおいても、「緩急スイッチ」という独自機能や、美しく高気密なムーブメントなど、見えないところに至るまで高級機らしい仕様になっているのが分かります。

★「自動検温機能」とは?
クオーツ時計の精度は、水晶振動子をはじめとする部品の品質や組み上げの精度だけではなく、温度変化にも左右されます。温度の変化によって振動数が微妙に変動し、精度に狂いが生じてしまうのです。それを解消するために、ムーブメント内に組み込まれたセンサーで検温を行い、温度差による振動数の補正を行っています。5℃の温度差で1日に約0.1秒の遅れが生じると言われており、微小なズレではありますが、精度にこだわる高級機ならではの機能と言えるでしょう。

比較2:製造工程【一つ一つに、妥協なき意思を】


続いて、製造工程における違いを見ていきたいと思います。

【グランドセイコー】
世の中にあるほとんどのクオーツは自動組立ですが、複雑な機構を持つグランドセイコーの9Fクオーツは、手作業でしか組み上げることができません。組立は長野県塩尻の「信州 時の匠工房」にて一貫して行われています。ダイヤル側、ムーブメント側、それぞれの組立を2名の職人が担い、熟練した技術を掛け合わせることで高い精度は保たれています。

【ザ・シチズン】
自然に囲まれた長野県飯田市にある「南信州高級時計工房」。ザ・シチズンは、この工房で小さな部品の一つひとつを人の手によって丁寧に組み上げていきます。 組み立てには卓越した技術を要すため、シチズンでも熟練した技術を持つ「時計組立マイスター」のみが、この作業にたずさわることができるのです。


製造工程においては、どちらも高級機専用弘法において、熟練のマイスターが手作業にて組み立てを行っています。各ブランドの中でも、組み立てに卓越した技術を要する年差時計は、プロ中のプロ「マイスター」が指先の感覚、五感のすべてを使い命を吹き込みます。
また、時計に使われる部品の全てを自社製造する時計メーカーは「マニュファクチュール」と称されますが、セイコー・シチズンともこれに該当します。マニュファクチュールは世界的に見ても非常に少なく、両者ともに高度な精密加工・組立の技術を有していることの証と言えます。

★「マニュファクチュール」とは?
マニュファクチュールとは、ムーブメント(時計の駆動装置)から自社一貫製造する時計メーカーを指す用語です。高級時計の生産地として有名なスイスでは、ETA社をはじめとするムーブメント製造会社からムーブメントを仕入れて時計を製造する分業方式が一般的ですが、パテック・フィリップ、オーデマ ピゲ、ロレックス、などの一部のブランドは、自社内で一貫して製造する方式を採っています。日本のセイコーおよびシチズンもマニュファクチュールに分類されます。非常に高い技術を持っていることの証と言えるでしょう。

CITIZEN Manufacture [CITIZEN-シチズン腕時計]
https://citizen.jp/manufacture/index.html

Manufacture | グランドセイコー公式サイト
https://www.grand-seiko.com/jp-ja/worldofgrandseiko/manufacture/manufacture

比較3:材質と外装【素材の秘密】

時計の外装に使用される素材として最も多いのが「ステンレス」および「チタン」。それぞれに良さがありますが、グランドセイコーとザ・シチズンにおいては、メインに使用される材質にも違いがあります。


グランドセイコーでは、ハイクラスのモデル(メンズモデルで80万円以上)においては、チタン素材や「エバーブリリアントスチール」という耐食性や美しさに優れた独自素材を使用するモデルがありますが、主に使用されている素材は「316Lステンレス」というハイグレードなステンレススチールです。腕時計に使われるステンレスとしては非常に良いものであり、丈夫かつ耐食性に優れ、サビにも強い素材です。サージカルステンレスとも呼ばれ、医療用メスやハサミなどにも用いられています。チタン比べると重さはありますが、気になる程ではなく、高級時計らしい程よいな重量感が感じられます。


ザ・シチズンはステンレススチールのモデルもラインアップされていますが、”スーパーチタニウム”と呼ばれるシチズン独自のチタン素材を採用したモデルを積極的にラインアップしています。
硬度が高いゆえに加工が困難なことで知られるチタニウムですが、シチズンには1970年に世界初のチタニウム時計を発表するなど、業界内で先んじてチタニウム加工に取り組んできた歴史があります。そんなチタニウムに”デュラテクト”と呼ばれる表面硬化処理を施すことで、「キズに強い・羽のように軽い・肌に優しい・サビにくい・美しい」の5拍子そろったスーパーチタニウムを独自開発し、ザ・シチズンに使用しています。このモデルでは「デュラテクトプラチナ」という表面処理がなされており、プラチナのように白く美しい外観を実現しています。

ステンレスとチタニウムでは”重さ”が段違いに異なるため、好みが大きく分かれるポイントとなります。程よい重量感のあるステンレススチールか、軽くて傷つきにくいチタニウムか、ぜひ店頭で実際に試着して比べてみてくださいね。

比較4:保証とアフターサービス【ともに歩むパートナーとして】

グランドセイコーとザ・シチズンは、双方ともに長期使用を前提とした高価な時計です。となると、バックアップ体制も気がかりになりますね。

グランドセイコーの保証期間は5年間、「時計修理技能検定1級」または同等レベルの技術を持ったプロフェッショナルがメンテナンスを実施し、データをカルテとして保存するサービスを行うことで、個々のオーナーに寄り添った管理体制を構築しています。ライフスタイルにより、微調整が必要となる可能性が生じるメカニカルモデルを多数展開するグランドセイコーならではの管理体制と言えます。

ザ・シチズンは「シチズンオーナーズクラブ」登録で、最長10年の正規保証期間が設けられます。保証期間の長さも驚きですが、それに加えて、保証期間中は無償の定期点検サービスが利用できます。数年おきに定期点検の案内状と郵送セットが届くことからも、コンセプト通りの着用者に寄り添ったサポート体制を感じることができますね。

今回は、年差精度・品質(性能)・材質・アフターサービスの4つに焦点を定めて比較してみました。実用時計の最高峰と名高いグランドセイコーが良い時計であることが再確認出来るとともに、ザ・シチズンも負けず劣らず、高いポテンシャルを備えた時計であり、スペック上ではグランドセイコーを上回っている点も多いことが分かりました。

シンプルな三針の年差クオーツ時計の比較では、両ブランドともカラー・文字盤デザイン・サイズを豊富にラインアップしていますが、スポーツモデルを多数展開するグランドセイコーに比べ、ザシチズンはシンプルな三針モデルのみのラインアップにとどまってます。

「絶対的な知名度と豊富なバリエーションが魅力」のGrand SEIKO
「圧倒的な利便性と優美な和紙文字盤がポイント」のThe.CITIZEN

両ブランドとも”最高水準の時計”であることを前提として、どちらを好みに反映させるのかが選択の分岐点となるでしょう。今後、どのようなラインアップが追加されていくのかも楽しみです!